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2014年10月14日
再生医療をはじめ細胞培養を伴う医療応用分野において、細胞の品質(安全性・機能性)管理は非常に重要とされています。基礎研究分野において一般的な培養皿を使用する培養手法は、培養皿の中の液体(培地)の対流により、細胞周囲の環境を精密に制御することが困難です。また、老廃物の蓄積や栄養源の消費により、細胞周辺環境が影響を受ける可能性が高いほか、作業時に外気へ接触することによって細菌やウィルスが混入する危険性があります。そのため研究グループでは、再生医療の普及に向けて簡単かつ安全にヒトiPS細胞を培養する方法を検討してまいりました。
本研究では、無色透明のシリコン樹脂素材により作製した直径0.5 mmの流路と、小型ポンプを組み合わせて超小型培養装置を設計・作製しました。本装置は、顕微鏡のステージ上に設置可能なサイズであり、培養中の細胞を随時観察したいという研究者のニーズにも応えています。
微小流路を用いた本装置の培養手法は、培養皿を用いた従来の手法に比べて、1) 細胞周囲の環境を精密に制御できる、2) 操作が簡便で自動化に向いている、3) 密閉状態を維持できるため細菌などの混入リスクが低い、などの利点があります。これらにより、細胞の品質管理が容易で、今後医療応用分野における標準的な手法になると期待されています。本研究では、ヒトiPS細胞の1細胞からの培養を実現し、増殖したiPS細胞が本来の性質を維持していることを明らかにしました。
ヒトiPS細胞は、その多能性の高さから再生医療への応用が注目されております。本研究の培養手法は、医療応用のための製品化や品質管理が容易であり、装置の大規模化による大量培養装置や培養機能を検査装置に組み込んだ細胞診断機器の開発などに応用することで、再生医療の普及に貢献できるものと考えます。今後、先端医療を一般の臨床現場に普及させ、より多くの患者さまにご提供するための再生医療支援機器の開発に役立ててまいります。
なお本研究成果は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援を受け、「活力ある生涯のためのLast 5Xイノベーション拠点※3」の事業・研究プロジェクトによって得られました。
(図1)PDMSチップの構造
1枚のチップ内に安定した培地の流れを作るためのダンパー部位と抵抗部位を含む。細胞は円筒形のチャンバー内へとトラップされ、その上部に位置する培地用流路部内を流れる培地によって栄養が届けられる。
(図2)1細胞からのヒトiPS細胞増殖像の例
顕微鏡による観察のもと、ヒトiPS細胞1個からの増殖を確認した。3枚の写真は同一視野を日を追って撮影。 (左から培養1日目、4日目、9日目)
※1 流速を自由に設定できるポンプと培養液を保存するためのチャンバー、そしてポリジメチルシロキサン
(PDMS)製のチップから構成されます。PDMSチップは2cm四方の中に直系0.5mmの細胞培養用流路構造、安定した流速を得るためのダンパー機能、一定の水圧を得るための抵抗部などを含みます。
※2 培養液の流れや培養液に含まれる成分を意味し、これらが細胞の性質に影響を与えることが知られています。
※3 2013年度に文部科学省「革新的イノベーション創出プログラム「COI STREAM」の採択を受けてスタートし、京都大学を中核機関に40社以上の企業が参画した産学連携の開発拠点です。
本プロジェクトでは、人が生涯にわたって尊厳を持ち、社会の一員として充実感を得ながら挑戦できる「しなやかでほっこりした」社会を実現するため、コードレスな電力伝送と高度ICT技術が支える安心生活センサーネットワーク、予防・先制医療、先端医療の領域において、大学と企業が専門分野と業種を超え
て垂直・水平連携した研究開発を行います。
アークレイは、「先端医療」(グループ4)のグループリーダーを務め、高度なイメージング技術を活用した効率的・効果的な医療の実現を目指し、再生医療支援機器の開発に取り組んでいます。
論文名:
Single-cell cloning and expansion of human induced pluripotent stem cells by a microfluidic culture device
雑誌名:
Biochemical and Biophysical Research Communications(BBRC) 453 (2014) pp. 131-137