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2016年3月9日

ヒトiPS細胞から膵島細胞の作製に成功
流路型培養システムを開発

アークレイ株式会社は、流路型培養システムを開発し、ヒトiPS細胞から膵島細胞※1の高効率作製に成功しました。また、作製した膵島細胞はグルコース濃度に応じたインスリン分泌能を持つことが確認できました。今後糖尿病の膵島移植治療や創薬研究、基礎研究への応用が期待されます。
なお本システムは、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」において、京都大学との共同研究により開発しました。

研究の背景と経緯

人体で唯一血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、膵臓内の膵島のみが産生・分泌し、血糖値の上昇に伴い放出されます。膵島が障害を受けるなどの原因でインスリン分泌が枯渇すると、慢性的な高血糖(糖尿病)となり、この状態が続くと腎不全や網膜症、末梢神経障害などの合併症を引き起こすおそれがあります。障害を受けた膵島は再生できないため膵臓・膵島の移植治療が行われていますが、ドナー不足が深刻な問題となっており、移植治療が思うように進んでいない現状があります。この解決策として、ヒトiPS細胞 / ヒトES細胞から、人工的に膵島を作製・利用する再生医療に大きな期待が寄せられています。一方で、正常なヒトは100万個ほどの膵島を持つとされており、移植治療に十分な量の膵島細胞を作製する方法や、品質のバラツキが少ない作製方法の開発などが課題として残されています。
このような背景の下、アークレイ株式会社(以下、アークレイ)は、簡単かつ安全に高品質なヒトiPS細胞を培養する方法を検討し、2014年にヒトiPS細胞を1個から培養可能な流路型の超小型培養装置の開発に成功しました。

研究成果

このたびアークレイは、新たにヒトiPS細胞の流路型培養システムを開発し、ヒトiPS細胞から膵島細胞の作製に成功しました。また、その膵島細胞は生体内の膵島と同様に、グルコース濃度に応じたインスリン分泌機能を保持することが認められました。
本システムは、培養皿を用いた従来の手法や大型の培養装置と比較し以下の特長があります。

○設置場所を問わないバッテリー駆動を採用

○培養液・廃液交換のポンプ稼動は専用プログラムによりスケジュール制御が可能なため、日々の培地交換作業が不要

○流路デバイス※2内での長期間培養維持が可能

細胞応答の解析に応用が可能

今後の展開

本システムは、培養環境を物理的に制御可能であり、同一構造を多数作成することで容易に培養規模を拡大することができます。現在、培地交換や温度管理、CO2濃度管理を全自動化した培養システムを開発中であり、大型化・自動化に加えて膵島以外の細胞種への応用も検討していきます。アークレイは、これからも再生医療支援機器の開発を通じ、先端医療の普及、患者さまのQOL向上に貢献します。

アークレイは、「第15回日本再生医療学会総会」(2016年3月17日~19日・大阪市)の付設展示会に出展し、本システムの展示ならびに研究活動を紹介します。
◇「第15回日本再生医療学会総会 出展概要◇
 会期 2016年3月17日(木)~19日(土) 会場 大阪国際会議場 ブース番号82

語句解説

※1 膵臓の血糖値調節に働く内分泌組織を膵島と呼び、血糖値を上昇させるホルモン(グルカゴン)がα細胞から、血糖値を下げるホルモン(インスリン)がβ細胞から分泌されます。

※2 無色透明のジメチルポリシロキサン(PDMS)製流路構造で、底面には多数の微小ウェル構造が配置されています。播種された細胞はこのウェル内で凝集体となり約1カ月の培養期間中、安定的に保持されます。

参考資料


ポータブル培養装置
流路デバイス(上)、ウェル付流路チップ(下)

分化誘導中盤(day 13)の培養像(上)
分化誘導最終段階(day 27)の凝集体(下)

膵島α細胞マーカー(左)、膵島β細胞マーカー(右)
分化誘導最終段階の凝集体を免疫染色解析した様子
それぞれグルカゴン、インスリンの産生が確認された