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2016年10月17日

リキッドバイオプシーの研究開発を加速し、個別化医療の発展に貢献
血中循環がん細胞の簡便・迅速な遺伝子解析システムを開発

アークレイ株式会社は、東京大学生産技術研究所 藤井輝夫教授、金秀炫助教らとの共同研究で、高純度濃縮システムを使用し、血液中を流れるごく微量のがん細胞を遺伝子解析する新たな手法を構築しました。本システムを活用し、血中循環がん細胞を正確に分離・検出、遺伝子解析することで、転移性のがんの診断や薬剤耐性のがん細胞の経過観察、治療効果の早期判定に有効となります。

本研究成果は、2016年10月8日の第75回日本癌学会学術総会および2016年10月10日(現地時間)の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2016)にて発表しました。

研究の背景と経緯

血液中を循環するがん細胞(circulating tumor cell:以下、CTC)は、末梢血中にごく微量存在し、原発性腫瘍から血管に入り込み、体内を循環し転移を引き起こすと考えられています。

がんの診断では、一般的に直接組織の一部を採取するバイオプシー(Biopsy:生体組織診断)が行われていますが、患者さまの身体的負担が少なくありません。そのため低侵襲の血液検査でCTCを検出・解析し、がんの早期発見や転移の発見につなげる手法の構築が期待されています。また、CTCの遺伝子解析は抗がん剤治療中のがん細胞の薬剤耐性のチェックなど、近年低侵襲の検査として注目されるリキッドバイオプシー(Liquid Biopsy:液体生検)としても有用です。

しかし、CTCは血液10mL中に数個~数十個程度しか存在せず、正確性や再現性においてその検出は技術的に極めて困難とされてきました。さらに臨床用途としてCTCを高感度に検出し、遺伝子を解析をするためには、次の3つの課題があるとされています。

1) 処理後のサンプル中に大量の血球細胞が残る、 2) 特定のマーカーを持ったCTCしか回収できない、

3) 作業日数(時間)がかかり、その工程にも非常に手間がかかる

研究グループでは、この3つの課題を克服するCTCの遺伝子解析に最適な新しいシステムを構築しました。

研究の内容

本研究で開発したCTC分析システムは、次の4ステップで構成しています。

1) 全血をフィルタリングし、フィルター上に捕捉した細胞を免疫染色・磁気標識する

2) フィルターから回収した細胞懸濁液の中に残存した白血球を、磁気分離により除去し、純化する

3)純化された細胞を、誘電泳動を用いてマイクロ流体濃縮デバイス内の観察チャンバーに濃縮し、蛍光顕 微鏡観察する

4)チャンバーに濃縮した細胞を全量回収し、核酸精製なしで遺伝子解析装置アイデンシー(i-densy)により遺伝子変異を解析する

本システムの実証のため、培養がん細胞株(NCI-H2228, NCI-H1650, NCI-H1975, SW620 またはMCF-7)を添加した全血を使用し、添加細胞の遺伝子変異(EML4-ALK, EGFR, KRAS またはPIK3CA)の検出を行いました。結果、8mLの全血中に添加した各培養がん細胞株が持つ遺伝子変異の検出に成功しました。なお、この手法の検出感度は、1cell/mLであり、この濃度でのがん細胞の検出および(その細胞の)遺伝子変異検出の成功率は100%(10回中10回)でした。

また、この際の残存白血球数は平均87個であり、全血の処理開始から9時間以内に、遺伝子変異の検出およびがん細胞数と残存白血球数、それぞれの計数結果が得られました。

さらに、本システムは特定のマーカーを持ったCTCを選別せず、不要な血球細胞のみを除去する手法であり、さまざまなタイプのCTCの遺伝子変異の解析が可能です。そのため、表現型が変化したCTCに対しても有効であると考えられます。

以上のことから、本システムを用いることで、簡便・迅速にCTCの遺伝子変異を解析することが可能です。

今後の展開

がんの治療には、早期発見と早期かつ効果的な治療法の選択、また転移や再発の診断や予測をすることが重要です。CTCの検査は、このようなより効果的ながん治療対策として期待されており、臨床研究が進んでいます。アークレイは、早期に低侵襲性でより効果的ながん治療を一般の臨床現場に普及させ、より多くの患者さまにご提供するため、新たな検査技術の創出、実用化に向けた取り組みを加速していきます。

‹参考図›

全処理工程図

CTCを高純度・高濃度のサンプルとして回収し、核酸精製せずに遺伝子変異検出が可能

CTCを高純度・高濃度のサンプルとして回収し、核酸精製せずに遺伝子変異検出が可能

濃縮デバイス

濃縮ディバイス

参考資料

「アイデンシー IS-5320」は、薬物代謝に関係する遺伝子の塩基配列やがんなどの遺伝子変異を全自動で解析する装置(医療機器)です。高度な操作技術を要することなく、「検体の前処理」→「遺伝子増幅」→「遺伝子型判定」までを簡便に実施できます。また、検体の採取から結果出力まで数日を要した遺伝子型判定が約80分で可能となります。アークレイは、「アイデンシー IS-5320」のほか、遺伝子検査用の体外 診断用医薬品「アイデンシーパックUGT1A1(*28/*6)」「アイデンシーパックCYP2C19(*2/*3)」を開発・販売し、個別化医療をサポートする製品の開発を積極的に進めています。