製品ヒストリー/糖尿病検査

ヘモグロビンA1cの名を広めたVENSONICセミナー

ヘモグロビンA1c(HbA1c)分画定量装置の開発秘話

海外でも紹介されたHA-8110
海外でも紹介されたHA-8110

HbA1cは、今でこそ糖尿病と切っても切れない関係になっていますが、1970年代のHA-8110開発当時は、ごく一部の先駆的研究者を除いて、日本では殆ど知られていませんでした。測定法自体が一般的でなかったため臨床応用もされておらず、一部研究者が糖尿病患者の血中ヘモグロビンのグリケーション(血液中の糖類やそれらの代謝産物とヘモグロビンの結合)を研究していただけで、文献も少なく、日本語の文献は皆無でした。わずかにミニカラム法によるHbA1cの測定が米国でなされているだけで、HbA1cとは何か、何に役立つのか、何も分かっていなかったといっても過言ではありませんでした。

そういった中、HA-8110の開発により、HbA1cの測定が実用化されたことは、国内だけではなく、世界中でセンセーションを巻き起こしました。

糖尿病のスクリーニングとして、また患者の管理指標としてHbA1cの有用性は明らかでしたが、当時はHPLC法によるHbA1c測定は保険収載されていませんでした(HbA1は認められていました)。

第一回ベンソニックセミナー(1983)
第一回ベンソニックセミナー(1983)

そこでアークレイは学会に働きかけ、糖尿病の著名な先生方によるHbA1cの研究会を発足させ、その研究成果の報告会をベンソニック(VENSONIC)セミナーという形で全国展開しました。ベンソニックとはベンチャーとソニックの合成語で、糖尿病の第一人者、馬場茂明神戸大学教授(当時)が、当社のベンチャー精神と新しい情報が広がることを願って命名してくださったものでした。このセミナーは海外で第一線のA1c研究者も招聘し、アークレイの学術支援活動として高く評価されました。
その後、こうした活動の功績が認められ保険収載されることになりました。また、成人には存在しないとされていたHbF(ヘモグロビンF)の存在が本法で確かめられ、HbF測定にもHPLC法が用いられるようになりました。
糖尿病を正しく見つめ、HbA1cが本当に必要なものと信じて粘り強く活動し続けたことが、今日の糖尿病検査の基礎となったことは、今でも我々の誇りとするところです。

キャップピアス方式の開発

HA-8110の誕生から約13年後の1994年、HAシリーズ3代目HA-8130が発売されました。

HA-8131(1994)
HA-8131(1994)

HA-8130の最大の特徴は、真空採血管のキャップを取らずに、直接に血液検体を採取するキャップピアス方式を搭載したことです。それまでは、人海戦術で真空採血管のキャップを外し、サンプリングが終えれば蓋をするという、とても面倒な上に危険を伴う作業が必要でした。キャップピアス方式を採用したことで、キャップを開閉する手間が減少しただけでなく、検査技師の方の感染予防にも役立っています。

このキャップピアス方式の開発にも苦労がありました。真空採血管に注射針を何回か差し込むと針先が磨耗し、刃先が丸くなって刺さらなくなってしまうのです。HA-8131では 1年間に何万個ものキャップを突き刺すので、磨耗させない工夫が必要でした。そこで思い付いたのは、昔のレコード針です。レコード針は紙やすりのようなレコード盤の溝を高速でトレースしますが、ダイアモンドやサファイアなどの硬度の高い物質でできているため磨耗しにくくなっています。また、レコード針の先端径は0.5mil(約0.012mm)で、真空採血管のゴムを突き刺すのに十分な先端径でした。

早速、ダイアモンドやサファイアなどを取り扱っている、ある宝石加工メーカーに相談したところ、サファイアであれば注射針の先端に取り付けることができるとの返事をもらうことができました。サファイアを使って試作品を作り、耐久性を実験したところ10万回以上突き刺しても問題ないという結果が出ました。こうして、キャップピアス方式に不可欠なピアス針が完成することとなったのです。

キャップピアス方式(HA-8160)
キャップピアス方式
(HA-8160)

大手総合化学メーカーとの協力で完成したHAシリーズは、臨床検査とは縁の遠い宝石加工メーカーとのコラボレーションによってさらに進化し、他の追随を許さない商品となりました。HAシリーズは改良を重ね、現在でもA1c測定のフラッグシップモデルとして活躍しています。よりよい装置を作るために、様々な手段を講じ、あきらめずに挑戦し続けたことが、HAシリーズの性能にそのまま反映されていると自負しています。

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